理事長挨拶

 JSoFFは1995年に設立され、初代理事長は大澤俊彦先生でした。その後、理事長のバトンは、吉川敏一先生、寺尾純二先生、中山 勉先生、芦田 均先生へと引き継がれ、この度、その重いバトンを受け取らせて頂くことになりました。子供の頃から「長」の名の付く役職経験は少なく不安で一杯ですが、駆け出し研究者の頃から今日に至るまで育てて頂いた本学会のさらなる発展のため精一杯尽力させて頂く所存です。


 さて、会員の皆様はJSoFFの魅力がどこにあるとお考えでしょうか?食品科学界における大御所の先生方や先端研究に従事している会員も多数、所属しており、学術集会ではインパクトの高いデータが毎年コンスタントに報告されています。

 そうした学術レベルの高さという魅力に加え、ここではJSoFFの学術集会に初めてご出席頂いた方々からは「活気のある(元気の良い)学会」という感想を頂く機会があることにも言及したいと思います。本学会設立時からのルール「60歳で役員職からは退く」は、他の学会ではほとんど(全く?)見られないユニークなもので、私はここに「JSoFFスピリッツ」とも表現できる活気の源があると感じています。

 言うまでもなく、研究者は科学という名の下では全て平等です。同時に、研究者が自由に議論しあうことで科学は発展します。欧米で教育を受けた研究者とは異なり、私たちは議論力に長けていませんし、自分を表現することが概して苦手です。そういう状況下では、議論しやすい雰囲気を意図的に設定することが学術集会の活性化には必須でしょう。たとえば、研究を始めたばかりで学術集会に初参加の学生であっても臆せず質疑ができる、あるいは脂の乗った若手研究者が私を含めたベテランを論破できるような、「遠慮なくモノを言える」環境を維持し、さらに発展させることは極めて重要です。

 権威主義を排除してきたJSoFFの伝統は「元気の良い」学術活動の基盤であり、私自身、JSoFFの自由な雰囲気のおかげで、他の学会では得難い経験を数多く積むことができました。また、本学会が若手研究者の育成に力を注いできたことにも異論を挟む余地はないでしょう(たとえば、全演題数に対するYIA候補演題数の割合がJSoFFほど高い学会を私は他に知りません)。これまでと同様、駆け出しの若い会員が本学会における研究活動を通して研究の面白さに開眼し、「研究力」を強化していくプロセスに貢献することが理事会として最も重要なミッションであると捉えています。

 次に、学会の現状認識と今後の展望について簡単に述べたいと思います。ご存知のように、JSoFFの会員数は現在350名程度であり規模は大きくありません。小規模だからこそ、学術集会では基本的に一つの会場ですべての講演を聴くことができ、密な議論が可能だというメリットもあります。したがって、実現可能かどうかは別として、単に会員数を大幅に増やすことにどのようなメリットがあるのかは慎重な議論が必要だと感じています。

 その一方で、私は「JSoFFは身内でやっている(閉鎖的な)学会」という批判を耳にしたことがあります。この意見についての是非は別として、新たな会員のリクルート先としては、「食品科学の周辺、あるいは少し遠くに位置する研究者」を提案したいと考えています。言うまでもなく食品科学の研究分野は膨大であり、食品(化学物質の集合体)と生物間(植物/微生物/動物)の相互作用に係る数多くの研究課題があります。その事実を鑑みると、たとえば「細胞と食品成分」や「実験動物と食品成分」の関係性だけを単に見つめていても、研究の展開には限界があるかも知れません。

 たとえばオートファジーは出芽酵母の電子顕微鏡観察時に偶然発見され、その形態学的解析が研究の端緒ですが、その後、栄養状態や食品成分との関係性に注目が集まり、現在では爆発的な広がりを見せています。私たちの持ち味である食品科学のアンテナを活かしながら、生命現象についての新しい知識をアップデートすることが先駆的研究の推進には必須ではないでしょうか(個人的な話ですが、2017年の藤沢でのJSoFF学術集会では、食品分野外の先端研究の話を拝聴することができ、非常に刺激を受けた記憶があります)。工学系の分析技術などについてのトピックも全く同じであり、専門分野外の技術を導入することで新たなブレークスルーが生まれるかも知れません。逆に、食品科学と直接的には関わりのない研究者が本学会へ参画することで、個々の技術の応用先を広げられるというメリットもあるでしょう。

 このように、日ごろから慣れ親しんでいる研究分野から少し寄り道をすることで発生する知的好奇心を愉しんで頂き、会員の皆様の研究に役立てられる機会を少しでも多く提供できればと思っています。

 また、本学会における参加者層を広げるという意味では、企業研究者や開発担当者の皆様のさらなる参画も強く願っております。食品科学における基礎研究の重要性は言うまでもありませんが、実験室で生まれた研究成果をどのような形で社会に還元できるかという視点を持ち続けることは必須であるからです。ご存知の通り、特定保健用食品や機能性表示食品に対する消費者の興味や期待が膨らむ一方で、ヘルスクレームの妥当性や健康食品の在り方自体にも様々な議論があります。こうした状況下、基礎と応用研究者間の情報交換、さらにはエビデンスがより強化された健康食品の創成という目的において、本学会が果たせる役割は少なくないと認識しています。

 最後になりましたが、新しい理事会の体制について簡単に説明させて頂きます。事務局については、上原万里子先生・井上博文先生(東京農業大学)から川畑球一先生(甲南女子大学)へとバトンタッチして頂くことになりました(ホームページについてはサーバーの関係で引き続き井上先生が管理します)。総務担当と会計担当につきましては、経験豊富な越阪部奈緒美先生(芝浦工業大学)と上原先生にそれぞれご留任して頂けることになり、非常に心強く感じております。また、編集担当につきましては、関 泰一郎先生(日本大学)に引き続き担当して頂きます(非常に洗練されたJSoFF Letterデザインは細野 崇先生によるものであり、今後も期待しています)。さらに、副理事長については、今回のFood Factor Week In Kobeでも中心的役割を果たして頂いた室田佳恵子先生(島根大学)と中村宜督先生(岡山大学)にご就任頂き、強力な体制になったものと自負しております。また、監事に関しましては、物井則幸様(ライオン㈱)にはご留任して頂き、相澤宏一様(カゴメ㈱)の後任として新たに菅沼大行様(カゴメ㈱)に担当をお願い致しました。

 繰り返しになりますが、JSoFFは自由な学会環境を基盤として、ここまで25年間近くの活動を続けて参りました。今後とも、運営方針などにつきまして、お気づきの点やご意見等ございましたら、小生か事務局までお気軽にご連絡頂ければ幸いです。 

2019年12月吉日
JSoFF理事長 村上 明 (兵庫県立大学)